2026.08.23 / ぶち上げインタビュー

【経営者インタビュー】「獣害の恐怖から人々を守りたい」——秋田発、獣害から人々を守る22歳。株式会社BearBell・服部さん

「獣害の恐怖から人々を守りたい」——秋田発、獣害から人々を守る22歳。株式会社BearBell・服部さん

「命を助けるサービスを、不安を安心に変えるアプリを、誰でもいつでも無料で使えるように。」。 クマ、イノシシ、シカ、サル。深刻化する獣害から人々を守るアプリ「クマップ」を運営する株式会社BearBell。その代表取締役を務めるのが、服部さん(22歳)だ。 生まれは大阪、育ちは東京。中学時代を過ごしたニュージーランドで最初の事業を興し、高校ではフェアトレード、キャリア教育、政策提言に奔走。大学から秋田へ渡り、ライドシェア事業を経て、獣害という社会課題にたどり着いた。しかし、その道のりは前例のない挑戦の連続だった。 「安全から共生へ」を掲げ、東北ナンバーワンの実績を積み上げる服部さんに、その原点と現

この記事の要点

  • 012025年6月には、内閣官房が定める国の成長戦略にも含まれる「ICTスタートアップリーグ」にも採択されました。
  • 02それを体感したくて、インドネシアの農家からコーヒー豆を輸入して、区民会館などで販売し、売上を農家に戻すフェアトレードを1年生の冬にやりました。
  • 03服部さん:この頃、自分は世にないものや社会課題に取り組む起業家的な性質なんだと分かってきました。

※ 人生ぶち上げch編集部が本文をもとに整理した独自の要約です。

「命を助けるサービスに、お金はかけない」——クマップという事業

——いま取り組んでいる事業について教えてください。

服部さん:いま私がやっているのは「クマップ」という事業で、クマやイノシシ、シカ、サルなどの獣害から人々を守るアプリケーションです。

ご存じの通り、いま秋田県のみならず東北全体、ひいては日本全体で、クマの問題は非常に深刻な社会問題になっています。秋田県では2024年10月のひと月だけで、5,200〜5,300件ほどの目撃情報が集まりました。一日あたり180件です。犠牲者も数多く出ていて、社会全体の大きな課題になっています。

クマと、追いかけっこをした

——服部さんご自身も、被害に近い経験を?

服部さん:私は東京出身で、大学から秋田に来て今年で4年目になるんですが、これまでにクマを6回目撃しています。

そのうち2回は、なんとクマと追いかけっこをすることになって、命からがら逃げ切りました。だからこれは世のためのサービスであると同時に、自分のためのサービスでもあるんです。

服部さん:クマップは2025年7月13日にリリースしたアプリで、すでにユーザー数は約2万5,000人。もうすぐ3万人に届きます。

リリース時には秋田県内のほぼ全メディアに取り上げていただき、読売新聞さん、共同通信さん、NHK、めざましテレビでも全国で報道されました。都内の電車内の電子パネルにもニュースが出て、ネットのPV数は400万ほど。子育て中の親子、観光客、登山客、最近ではゴルファーまで、本当に様々な方に使われています。

情報を、一つに集める

——既存のサービスと、何が違うのでしょうか。

服部さん:今までは、秋田県なら「クマダス」、北海道なら「ヒグマップ」というように、それぞれの行政が別々に予算を割いて、その地域でしか使えないサービスをやっていました。

でも情報が散在しているので、ユーザーは「どれを見たらいいんだ」と迷子になってしまう。しかも行政の通知は目利きに時間がかかり、3日かかることもありました。獣害はスピードこそが命なのに、です。

服部さん:そこで私たちは、世の中に存在するありとあらゆる獣害の情報と探知技術を、すべて自社のプラットフォームに集約しました。

さらに導入しているのが、デマ情報を防ぐAI信頼度スコアリング技術です。その情報がどれくらい確からしいのかを、様々なパラメーターから自動で演算して信頼度を出す。この網羅性とスピードで、検知から5秒以内に、必要な人へ通知が届く仕組みになっています。


住民は無償、企業と行政で——マネタイズの3本柱

——ビジネスモデルについて教えてください。

服部さん:住民向けのサービスは、実は全額無償で提供しています。内部広告も一切ありません。

これは社会課題から始まった、命を助けるサービスだからです。命を助けるサービスにお金をかけるのは、企業としては儲かるかもしれないけれど、世のための形ではない。誰にでも気軽な安心と安全を提供することはできない。ここはもう無償であろうと固く決めています。

——では、どこで収益を上げるのですか。

服部さん:マネタイズは、企業様向けと行政様向けのクマップです。

主にインフラ系の企業様が獣害に苦慮されていて、水道局や電気、測量会社さんは作業が止まり、通信会社さんは森の中の電波塔のメンテナンスに危険がある。鉄道会社さんは夜間の保全作業が昨年だけで百数十件も襲われています。そうした危険を予測・可視化し、遭遇時のオペレーションを最適化するサービスを、SaaS・PaaSで提供しています。

服部さん:行政様向けには、DXで窓口業務の負担を減らしています。

秋田県のあの5,000件超の情報も、現場はわずか数人ほどのスタッフで支えている。デマかどうかを肉眼でチェックし、警察や猟友会に報告し、現場確認、駆除、報奨金の手続き……と、本当に手間がかかっている。そこにAIやDXの技術を活用しているんです。


東北ナンバーワンの実績と、学生10人の会社

——会社としての実績を教えてください。

服部さん:昨年夏からのこの1年ほどで、行政や民間のコンテスト・プログラムから、合計で約25件の採択・受賞をいただきました。

表彰という面では、圧倒的に東北ナンバーワンの実績です。2025年6月には、内閣官房が定める国の成長戦略にも含まれる「ICTスタートアップリーグ」にも採択されました。設立から半年足らずの、しかもほぼ学生のスタートアップとしてです。

服部さん:他の採択企業はAIや半導体、宇宙ビジネス系がほとんど。その中で社会課題という面で採択されたのは珍しく、秋田県としては史上初、東北としては8例目の採択でした。

会社の本社は秋田県の国際教養大学の中にあって、メンバーは今10名。全員がこの大学の学生です。東京の上場企業とも共同で技術開発をしていますが、事業主体が学生であることは間違いないですね。

前例がない、という壁

——ここまでで、大変だったことは。

服部さん:私たちは本当に世の中にないサービスを作っているんです。獣害でこれと似たことをやっているところは、今どこにもありません。

だから、そもそも世の中にないソリューションを作るのがすごく難しくて、事業モデルの設計にも苦戦しました。特にプライシングです。既存のものがあれば「その8割で」と言えますが、参考が存在しないので、いくらがリーズナブルなのか本当に難しい。

服部さん:あとは、やはり学生スタートアップであること。知識も足りないし、正直、危機感が足りない部分もある。

スタートアップはとにかくスピードがすべてなので、そこは難しいと感じました。今はだいぶ解決できています。


中2で7,000人——原点はニュージーランド

——事業家としての原点は、いつ頃ですか。

服部さん:こういう活動を始めたのは、実は中学2年生の頃です。

生まれは大阪で、すぐ東京に引っ越して、0歳から中学1年までは東京。中2・中3は父の仕事でニュージーランドのオークランドに住んでいました。高校で東京に戻り、大学から秋田、大学3年ではシンガポールに留学しています。

服部さん:私はすごくゲームが好きなんですが、10年以上前のニュージーランドには、今のようなSNSがほぼなかった。

趣味を語るには地理的な近さが必要で、移住した途端に周りに語れる人がいなくなって、とてもつらかったんです。でもこれは、日本の地方の人も感じている、社会一般の悩みなんじゃないかと思いました。

服部さん:そこで、当時500人まで入れたLINEのグループを使ってコミュニティを作りました。

2〜4年で13〜14グループ、約7,000人のコミュニティになっていました。世の中の社会課題と自分の悩みが一致していて、まだ世にない方法で、自分なりのソリューションを社会に実装する面白さに気づいたのが、この頃です。


フェアトレード、キャリア教育、そして政策提言

——高校時代も活動を続けたのですか。

服部さん:高校1年の頃はSDGsが流行り始めた時期で、みんなバッジを胸につけていた。でも自分の生活には関連性がないと、僕も周りも感じていました。

それを体感したくて、インドネシアの農家からコーヒー豆を輸入して、区民会館などで販売し、売上を農家に戻すフェアトレードを1年生の冬にやりました。

服部さん:この頃、自分は世にないものや社会課題に取り組む起業家的な性質なんだと分かってきました。

一方で周りを見ると、みんな「いい大学、いい会社、たくさん稼ぐ」ために必死に勉強しているのに、その先の目的はぼやっとしている。キャリア教育が行き渡っていないと感じたんです。

——それが、キャリア教育の活動につながる。

服部さん:高校2年、ちょうどコロナでロックダウンして、学生も企業も暇になった。

そこで学生と大企業・中小企業・行政・海外企業をZoomでつなぎ、キャリア教育のプログラムを提供しました。秋には自分の高校で、単位のつく授業の講師を四半期ほど任せてもらいました。

服部さん:でも、これは自分がいなくなれば途絶えてしまう個人的な取り組みでしかない。

永続させるには仕組みを変えるしかないと考えて、政策提言に取り組み始めたのが2年の冬です。都庁や衆議院議員会館に出入りして、当時の主要政党に、キャリア教育拡充の政策草案を一緒に提案していました。


なぜ、秋田だったのか

——数ある地方の中で、なぜ秋田を選んだのですか。

服部さん:東京は皮肉にも刺激に溢れていて、キャリア教育が本当に必要なのは地方だと思ったんです。

たとえばボーイングの機体の多くのパーツは、日本の名もなき中小企業が作っている。世界を支える技術が地方にあるのに、後継者不足でどんどん潰れている。そういう企業にキャリア教育でスポットライトを当てたかった。

服部さん:秋田は、若者の流出も、少子高齢化率も、自殺率もワーストクラス。

だからこそ、この最難関をクリアできれば他の地域はもっとハードルが低い。一気に展開できると思って、東京から偉そうに語るのではなく、自分の目で現場を見るために秋田へ行きました。

ライドシェアから、獣害へ

——秋田では、まず何を始めたのですか。

服部さん:僕はADHDで落ち着きがないんですが(笑)、次はライドシェア事業を始めました。

うちの大学は空港の横の森の中にあって、市内に出るだけで1時間、バスも1時間半に1本。移動の自由は生活の自由に直結するので、車を持つ人と持たない人をつなごうと、友人とやっていました。今は後輩に引き継いでいます。

服部さん:その活動の中で、獣害が深刻になってきた。

大学が森の中にあるので、2023年頃から僕たちはフロントラインでずっとクマと遭遇していたんです。それなら作ってみようか、と立ち上がったのがBearBellでした。


化け物たちの中で——シンガポール留学

——大学3年ではシンガポールに留学されています。

服部さん:うちの大学は全寮制で授業も全部英語、卒業には留学が必須なんです。

GPAが3.8〜3.9あったので、アジア一とも言われるシンガポール国立大を選ばせてもらいました。もう化け物しかいなくて、物理オリンピックの金メダリストや宇宙天文学の金メダリストが当たり前にいる。キャンパスで小型ロケットを飛ばす人までいました。

服部さん:ただ、すごくストレスフルな場所でもありました。成績が相対評価で、下位の人は落第する。

だから蹴落とし合いが起きて、偽のテスト情報が出回り、誰も信用できない。神童扱いされてきた人たちが追い詰められて、文字通り亡くなる人もいました。

——そこで得た学びは。

服部さん:世の中を動かしている人は、結局、頭のネジがぶっ飛んでいる人なんだと思いました。

まともなことを考えても、想像通りのインパクトは出ない。一見夢物語に見えることをやってみることこそが、人類史を進めるんじゃないかと思うようになりました。


「わっしょい」——目指す経営者像

——ロールモデルにしている人はいますか。

服部さん:有名どころだと、イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズはすごい経営者だと思います。仕事が趣味になっていて、目的の達成のためなら組織内の軋轢も躊躇しない。企業としては正しい姿だと尊敬します。

もっと身近だと、東北の「株式会社Wasshoi Lab」さんの齋藤さんに憧れています。地方創生などを手がける会社で、社訓が「わっしょい」なんです。

服部さん:自分がハッピーになれば周りもハッピーになり、周りがハッピーになれば社会もハッピーになる。

当たり前のことを言っている社訓ですが、一周回って本当に真理だな、と思います。三方よしと同じで、みんなが幸せになることが本当のあるべき生き方だと思うんです。岩手のヘラルボニーさんも、社会課題から始まったゼブラ企業の先進例として、先輩としてすごく尊敬しています。


「安全から、共生へ」——描く未来

——「安全から共生へ」というミッションに込めた思いは。

服部さん:まずは、今の世の中に漠然と広がる不安や危険を、テクノロジーで安心・安全に変えていく。

その先が「共生」です。動物と手をつなごうという話ではなくて、人間と動物と自然界が、お互いに干渉し合わず正しく住み分けされる。それを実現したいんです。

服部さん:少子高齢化で、人が介在するビジネスは人手不足で成り立たなくなっていく。

でも自然や動物は、人間が介在しなくてもそれ自体が魅力になる。日本は絶対にこれを活用しなきゃいけないのに、今は魅力どころか恐怖として人々に植え付いてしまっている。

だからまず目の前の安全を確立し、その先で自然の魅力を活かして地方を創生し、持続可能な共生体制をつくっていきたいと思っています。


これから挑戦する人へ

——最後に、挑戦したい若者へメッセージをお願いします。

服部さん:思いついたら、もう本当にやってみるだけだと思います。

突拍子もないアイデアが世の中を変えることは、本当に多々あります。ただ、この最初の一歩を踏み出すことが一番勇気がいるし、一番みんなが挫折するところでもある。

服部さん:でも、この一歩を踏み出した人こそが輝くのは世の理だと思います。

大学生は、良くも悪くもまだ何の責任も背負っていない年代です。失敗も無限にできます。だからこそ、今だからこそ、そういう挑戦をぜひしてみてほしいですね。


獣害という、多くの人が目を背けたくなる恐怖に、22歳はテクノロジーで立ち向かう。命を守るサービスは無償で貫く一方、前例なきビジネスモデルを冷静に組み立てる。夢物語を現実に変えてきた歩みの先に、彼は人と自然が共に生きる未来を見据えている。


会社概要

会社名:株式会社BearBell

設立:2024年10月(2026年1月法人化)

代表:服部 悠大/共同創業者:佐藤 孝哉

事業内容:動物出没情報共有プラットフォーム「クマップ」の開発・運営(獣害対策アプリとして住民向けは無償提供、企業・行政向けはSaaS・PaaSとして提供)

所在地:秋田県秋田市(国際教養大学内)


取材・文:佐藤大遥(株式会社One Rep)

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